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【休職・離職を防ぐ】日次データで実現する“ラインケア”の運用設計休職 離職 予兆 データ、具体的な運用設計、危機回避

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【休職・離職を防ぐ】日次データで実現する“ラインケア”の運用設計休職 離職 予兆 データ、具体的な運用設計、危機回避
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休職や離職を減らすには、「不調が表面化してから動く」のでは遅すぎる──。健康経営の取り組みが広がり、ストレスチェックや産業医・保健師との連携制度が整っていても、“兆しの段階”でのフォローがうまく働かない企業は少なくありません。背景にあるのは、制度そのものではなく、ラインケアが“実際の運用として機能しにくい構造”です。本記事では、ラインケアがどこで機能しづらくなるのか、日次データがその課題をどのように補完できるのか、さらに、運用として定着させるための仕組みをどのように設計すべきかを整理します。「属人的なラインケア」から「組織で支えるラインケア」へと踏み出すためのヒントをお届けします。

【休職・離職を防ぐ】日次データで実現する“ラインケア”の運用設計休職 離職 予兆 データ、具体的な運用設計、危機回避

1. はじめに──休職・離職は“兆し”で止める時代へ

休職や離職は「発生してから対処する」段階では、すでに企業側の負担も現場への影響も大きくなってしまいます。健康経営の取り組みが広がり、産業医・保健師との連携制度やストレスチェック制度が整備されていても、メンタル不調や離職を“兆しの段階”で防ぎ切れていない企業は少なくありません。その背景には、ラインケアという制度は整っているものの、日々の変化を把握するための情報が不足し、十分に活用しきれないという構造的な課題があります。

2. ラインケアとは何か(厚労省定義と現場でのギャップ)

ラインケアとは、厚生労働省が示す「管理監督者が、日常的に部下の状況を把握し、必要に応じてサポートすること」という考え方です。つまりラインケアは、人事部門や産業医ではなく「現場に最も近い管理職が担う役割」であり、次のような行動が含まれます。
・日常的な声かけや体調変化への気付き
・業務量や勤務状況の調整
・変化が見られた際の早期フォロー
・必要に応じた人事・産業保健との連携
理想的なラインケアとは、制度として形式的に置かれるものではなく、日常のマネジメントの中で自然に機能している状態です。

【しかし現実には機能しにくいケースが多い】
・部下の変化に気付けるのは、偶然会話の機会があったときだけ
・定期面談を実施していても、変化をとらえる前に悪化してしまう
・管理職が多忙で、フォローが後回しになりやすい
・人事は「面談で報告が上がるまで動けない」状況になりやすい
多くの企業では、ラインケアは制度上の位置づけとして存在しているものの、日常の支援に十分に生かしきれず、実質的に機能しにくい状態になりがちです。

【原因は“意識不足”ではなく“構造的に気付きづらい環境”】
ラインケアが機能しない理由を、管理職のスキル不足や意識の問題だけで説明することはできません。
実際には、次のような“気付きにくさを生む構造”が存在しています。
・勤務状況や行動変化をタイムリーに把握できない
・ストレスチェックだけでは、変化を早期に把握しづらい
・状態が数値化されていないため、サポート判断が難しい
・不調は「申告」ではなく「沈黙」として表れることが多い
つまり課題は「管理職が努力していない」ことではなく、「気付くためのデータが不足している」「仕組みとして支えられていない」点にあります。

【本記事で扱うテーマ】
ラインケアを“属人的な対応”から“データに基づく運用”へアップデートする方法を整理します。ポイントになるのは、「日次データによる変化の可視化」と「サポートに入れる運用設計」です。次章では、ラインケアがどこで機能しづらくなるのかを整理し、日次データがそれをどのように補完できるのかを解説します。

3. ラインケアが形骸化する3つの構造要因

ラインケアが十分に機能しづらくなる背景には、管理職の意識やスキルだけではなく、“気付きづらさを生む構造”が存在しています。本章では、その構造的な要因──すなわちラインケアが途中で止まってしまう「つまずきポイント」を整理し、日次データがどのように補完できるのかを解説します。
【ラインケアの3つの“つまずきポイント”】
(1)状態が「見えない」
・体調やコンディションは目に見えず、会話がなければ把握しづらい
・在宅勤務や分散勤務が増え、日常の変化が見えにくい
・“悪化してから申告される”という後追い支援になりやすい

(2)タイミングを逃しやすい
・面談やストレスチェックなど定期的な取り組みだけでは、日々の変化を把握しきれない
・小さな行動変化は、管理職の感覚だけでは拾いきれないことが多い

(3)対応が属人化する
・「気付ける管理職」と「気付けない管理職」の差が大きい
・フォロー方法が統一されておらず、相談ルートも整備されていない
・人事が状況を把握したときには、すでに悪化していることもある

結果として、多くの企業で起きているのは、「気付く仕組みがない」→「動けない」→「人事が介入する頃には重くなっている」という連鎖です。

3. ラインケアが形骸化する3つの構造要因

4. 日次データが補完する役割──“気付き依存型”から“検知型”へ

【この構造を断ち切る鍵が“日々の変化を可視化するデータ(日次データ)”】
日次データとは、従業員の心身の変化や働き方の状態を、日ごとの単位で継続的に捉えられるようにした情報の総称です。例として、勤務状況の変動、生活リズムの乱れ、日々のコンディションの変化など、日単位で推移を確認できるデータが含まれます。こうした情報が蓄積されることで、ラインケアは“管理職が気付くかどうか”に依存するのではなく、変化を客観的に察知できる“検知型”のサポート体制へと変わります。
・心身のコンディション変化を示すスコアの推移
・勤務開始/終了時間の変動
・生活リズムや行動量の変化(各社のデバイスやツールで取得可能な範囲)
・特定期間での変化幅(例:直近数日間で急激に低下した、反対に改善した 等)
日々の状態がデータとして可視化されることで、「何となく疲れていそう」という主観ではなく、「明確な変化が生じている」という客観的判断が可能になります。

【日次データがもたらす変化】
・“異変に気付くかどうか”ではなく、“変化が通知されるかどうか”に変わる
・サポートの初動が「憶測」ではなく「記録に基づいた判断」になる
・管理職が状況を1人で抱え込まず、人事や産業保健と早期連携できる
・“ハイリスク者”だけでなく、“グレー層”にも支援を届けられる
つまり日次データは、「ラインケアを個人のスキルに頼らず、組織として支えられる状態にする」ための基盤になります。

次章では、このデータをもとに、どのように“サポートに移れる運用設計”を構築するのかを整理します。

4. 日次データが補完する役割──“気付き依存型”から“検知型”へ

5. 日次データを前提にしたラインケア運用設計

日次データが取得できるようになることで、「気付いたら動く」ラインケアから「変化が見えたら動ける」ラインケアへと設計を変えることができます。
ここでは、属人的なマネジメントを脱し、誰が担当しても一定水準のサポートが行えるようにするための運用設計ステップを整理します。

【ステップ1:指標を決める(何を“変化”とみなすか)】
まず必要になるのは、「どの状態を“サポートの合図”とみなすか」という基準づくりです。
例としては次のようなものがあります。
・ストレススコアが一定値を下回った
・過去7日間でスコアが急低下した
・業務時間が通常より長く/短くなった
・出社/ログイン時間が不規則になり始めた
・活動量(歩数・睡眠など)が明確に減少した
重要なのは「異常値を判定する」のではなく、
「いつもと違う状態を、一定ルールで拾えるようにする」ことです。

【ステップ2:通知ルートを設計する】
次に決めるべきは、変化を検知した際に「誰に、どの段階で共有するか」です。
・まず管理職へ通知
・一定期間状況が改善しない場合は人事へ共有
・さらに深刻な場合は産業医/保健師へ連携
このように、段階的に役割を分けておくことで、「気付いたのに動けない」「誰に渡せばいいかわからない」という停滞を防ぐことができます。
通知先と優先度を整理しておくだけで、サポートの初動スピードは大きく変わります。

【ステップ3:対応テンプレートを用意する】
「気付いたあと、どう動けばいいのか」まで整理しておかないと、結局は属人的な対応に戻ってしまいます。
そのため、状況別に“初動テンプレート”を用意しておくことが有効です。

・軽度(声かけで様子を確認する段階)
・中度(業務量を一時的に調整する段階)
・重度(人事/産業保健と連携する段階)

あらかじめ想定を用意しておくほど、管理職が迷わず動けるようになります。
「スキルが高い人だけが対応できるラインケア」から、「全員が一定水準で支援できるラインケア」へと移行するための仕組みです。

【ステップ4:記録に残す】
対応の記録を残すことは、管理職を守る意味でも、人事が状況を把握する意味でも重要です。
・誰が、いつ、どのようなフォローを行ったか
・状況が改善したか、悪化したか
・追加のサポートが必要かどうか
これにより、
「判断が個人に閉じず、組織として支えられる状態」
をつくることができます。

【運用設計のポイント】
・“気付く/通知される/動ける”を一連の流れで設計する
・判断や行動を属人化させず、テンプレート化する
・管理職を「支援する側」だけではなく「支援される側」としても守る
ラインケア運用とは「管理職に負担を押し付けるもの」ではなく、「管理職が無理なくサポートに入れるようにする仕組みづくり」だと言えます。

次章では、この設計がもたらす具体的な効果と、管理職・人事双方にとってのメリットを整理します。

5. 日次データを前提にしたラインケア運用設計

6. 管理職・人事・組織それぞれに生まれる効果

日次データを前提にしたラインケア運用へ切り替えることで、「不調者を発見できるようになる」だけではなく、管理職・人事・組織それぞれに “負担の軽減” と “支援の質向上” が同時に起きます。ここでは、従来型ラインケアとの違いを踏まえながら、得られる効果を整理します。

【従来型ラインケアの課題】
・声かけや面談はできているが「把握が担当者次第」になる
・管理職が“気付けない”まま状態が悪化し、人事が介入する頃には重症化している
・年1回ストレスチェック+自己申告という“静的な判断”が主軸になりがち
・「気付かなかった/対応が遅れた」という心理的負担が管理職側に蓄積する
・属人的対応が多く、支援履歴が残らず人事が状況を追いにくい
この状態では、
「ラインケアが存在しても、事後対応ばかり増える」
という結果になりやすくなります。

【データ基盤型ラインケアに変えることで得られる効果】
(1)管理職の負担が減る
・“気付けなかった”という後悔から解放される
・状況が自動で通知されるため「察する力」に依存せずに済む
・声かけやフォローの判断材料がデータで可視化される
(2)人事側が“後追い対応”から脱却できる
・管理職からの申告待ちではなく、日次変化が共有される仕組みになる
・「気付いた段階で動ける」ため、面談や制度支援が早期化する
・サポート対象者を“ハイリスク者だけ”ではなく“グレー層”まで広げられる
(3)組織として支援の質が均一化する
・対応をテンプレート化することで、“支援できる管理職”の偏りがなくなる
・属人化せず、トラッキング可能な支援履歴が残る
・支援状況を俯瞰できることで、改善ポイントが見える化される

【サポートの「抜け漏れ」が減る】
従来のラインケア
→「申告してきた人」「明確な不調を見せた人」だけが支援対象になりやすい
データ基盤型ラインケア
→「明確な不調前の“変化”が拾われるため、対象者が広がる」
結果として生まれるのは
「特定の管理職だけが頑張るラインケア」ではなく
「組織として支えるラインケア」です。

【“責める視点”から“支え合う視点”へ】
日次データを用いたラインケアは、「管理職ができていない点を可視化するもの」ではありません。
むしろ
・誰がどこで負荷を抱えやすいか
・どの部署がフォローしづらい状況にあるか
・サポートが手厚く届いている/届きにくい領域はどこか
といった「支援の届き方」を見える化するものです。
つまり、
“責任を明らかにする仕組み”ではなく
“サポートを行き渡らせるための仕組み”です。

次章では、こうした仕組みを支えるサービスの例として、NTTPCが提供する「健康経営®支援サービス」の役割と位置付けを紹介します。

7. NTTPCの「健康経営®支援サービス」の役割

本記事で整理してきたように、ラインケアを「気付けるかどうか」に依存させず、「変化に気付いた段階でサポートに動ける仕組み」に変えるためには、日次データの可視化と、支援フローの設計が不可欠です。この仕組みを実装するための具体的な選択肢のひとつが、NTTPCが提供する「健康経営®支援サービス」です。

【ラインケアを支える“データと運用”の基盤としての役割】
このサービスは、
・従業員の日次データを取得し、状態変化を視覚化する機能
・通知・連携の流れを整理するための仕組み
・管理職や人事が迷わずサポートに動ける支援設計
を備えることで、ラインケアの運用を「属人的な行為」から「組織で支えられた仕組み」へと転換することを目的としています。
本記事で扱った運用ステップ(指標設計/通知ルート/対応テンプレート設計など)は、いずれもこのサービスの運用設計と親和性があります。

7. NTTPCの「健康経営®支援サービス」の役割

8. まとめ──“気付けるかどうか”から、“変化を支えられる組織”へ

・ラインケアが機能しない原因は「管理職の意識不足」ではなく「気付きづらい環境」にある
・年1回・月1回など“低頻度の把握”では兆しを捉えられず、不調や離職の発火点を防ぎにくい
・日次データにより“変化が可視化される状態”をつくることで、対応の初動が早まり、支援対象者も広がる
・運用設計を行うことで、ラインケアは「個々の感覚に頼る支援」から「仕組みとして継続できる支援体制」へと変わる
・健康経営は制度整備だけでなく、“日常的なケアを支えるデータ基盤”の整備が必要なフェーズに入っている
ラインケアの精度は、離職率・休職率だけでなく「働きやすさ」「心理的安全性」「業務パフォーマンス」といった組織の根幹にも直結します。
属人的な努力ではなく、仕組みとしてサポートが行き渡る企業ほど、離職リスクを低減しながら持続的な成長を実現していくことができます。

ご利用に関する注意事項
「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営®支援サービスは、ヘルスケアサービスです。医療機器とは異なります。
健康経営®支援サービスは、疾病を予防するサービスではありません。利用者のバイタルデータを取得し、平常時の状態との違いをお知らせするサービスです。
健康経営®支援サービスは、疾病を判断するサービスではありません。熱中症や頻脈などの症状を診断することはできませんのでご注意ください。
参考情報
医療機器とヘルスケアサービスの違い
医療機器とは
疾病の診断、治療、予防に使用される機械器具、もしくは身体の構造、機能に影響を及ぼす機械器具のことです。(ソフトウェアプログラムも含む)ただし、危機が機能障害の際に生命、健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除きます。
ヘルスケアサービスとは
健康維持や増進のための行為や管理を補助、もしくは促進するサービスのことです。